乘一叶月舟,渡万顷星河,将那无法言喻的心意,化作诗行,遥寄向海的彼方……
第三話 「碧波の永遠」(最終回)
◯登場人物
◇松永善博 森沢奈緒
◇早瀬雫 川奈由織 岩崎ちなつ 杉野治美 津賀島つぐみ
◇伊藤亮二
◇少女 深景(回想のみ)
◇その他の生徒達 女生徒(奈緒の友人)
◇美佳(善博の娘) 美佳の母(シルエット)
◯雲に隠れた月
◯海
自失状態で海へ入っていく奈緒。
◯海岸
走ってくる善博。
いったん立ち止まり、辺りを見回すが、黒い海しか見えない。
焦る善博、奈緒の名を呼びながら砂浜を走り出す。
善博「奈緒ちゃ~ん!」
◯海
海面が奈緒の胸の辺りまでになっている。
波しぶきが奈緒の身体を叩く。
◯海岸
膝に手を付き、肩で息をしている善博。
焦ったように辺りを見回し、再び体を起こし、歩いて捜しはじめる。
◯海
海面が奈緒の肩まで掛かっている。
自失した奈緒は、構わずそのまま歩いている。
◯岩礁
岩の上に立つ少女。
月を隠している雲を見上げる。
雲から月が現れる。
◯海岸
スッと月の光が海面を照らす。
海面を見ている善博。
海に奈緒の姿を発見する。
善博「!!」
◯海
奈緒「この海はなにも…許してくれない」
大きな波が奈緒を覆い、そのまま奈緒の姿が消える。
◯海岸
善博「奈緒ちゃん!」
なりふり構わず海の中に入る善博。
◯海
波間から意識を失ったような奈緒の顔が浮かぶ。
泳ぐ善博。
再び沈もうとする奈緒。
――を、後から善博の腕が抱きかかえる。
善博「しっかりするんだ!」
しかし、奈緒は人形のように抵抗がない。
善博「奈緒ちゃん!」
半目を開き、
奈緒「(つぶやき)ごめんなさい…先輩…」
再び目を閉じてしまう。
善博「奈緒ちゃん! しっかり! 奈緒ちゃん!」
奈緒の名前を呼ぶ善博の声が、波の音にかき消えていく…
◯寮・脱衣場
奈緒を抱きかかえた善博。
二人ともずぶ濡れである。
濡れて張り付いた奈緒の前髪を、善博の指がそっと横へ流す。
善博「奈緒ちゃん、大丈夫か!」
善博の声が聞こえないかのように、目を閉じガタガタ震えている奈緒。
困った顔の善博。
腰を落とし、抱いている奈緒を降ろそうする。
善博「(焦って)今、由織さんを呼んでくるから…ここで…(奈緒を見て)?」
奈緒の手が善博の服をギュッと掴んでいる。
奈緒「(小声)行かないで…」
善博「(驚き)…!?」
奈緒、うつむきながら泣き叫ぶ。
奈緒「…私を一人にしないで」
奈緒の肩ががたがたと震えている。
奈緒「(うつろな眼)……」
善博、奈緒の異常に気付き、
善博「奈緒ちゃん、しっかり、しっかりしろ!」
奈緒の肩を揺する善博。だが、奈緒は無反応で震えている。
善博「(仕方ないといった感じで)くっ!」
奈緒を抱いたまま、立ち上がる善博。
◯寮・浴場
湯気と共に温水がシャワーから流れる。
空の浴槽のほうまで、立ちこめていく湯気。
温水を流したまま、傍らに置かれるシャワー。
善博に抱かれたまま、目を閉じ震えている奈緒。
善博、辛そうに奈緒の顔を見ながら、
善博「ごめん…」
と、奈緒の上衣のボタンに手を掛ける。
× × ×
ボタンを全て外すと、パサッと上着の前が開く。
開いた上着の下から露わになるブラジャー。乳首がうっすらと透けて見える。
善博、ハッとして思わず手を止める。
流れているシャワー。
× × ×
脱いだ上衣が落ちている。
奈緒の足首からスカートが脱がされ、その上に置かれる。
善博に抱かれる下着姿の奈緒。相変わらず、目を閉じて震えている。
温水のシャワーが、奈緒の身体に降りかかる。
シャワーを持って、顔を意識的にそむけながら、温水を奈緒に掛けてやる善博。
温水が奈緒の胸を流れる。張り付き、素肌同然の胸。
善博、ドキッとして目を反らす。
奈緒「……」
奈緒、おもむろに眼を開く。
善博、困惑の表情で、天井を見ながら腕を動かしている。
奈緒、救いを求めるような眼で善博を見上げる。
奈緒「松永…さん…」
善博「え?」
思わず、奈緒の姿を見下ろす善博。
善博「奈緒ちゃん…」
見つめ合う二人。
善博「どうして…あんな事したんだ?」
奈緒、嫌々をするように激高して首を振る。
奈緒「海は…海は許してくれない! 許してくれないんです」
善博「奈緒ちゃん! 落ち着くんだ!」
善博の胸に抱きつく奈緒。
善博「!」
善博、その拍子にシャワーを持った手を下ろす。
ジャーッと虚しく床に当たっているシャワーの温水。
奈緒「(小声で控えめに)…抱いてください…」
善博「!」
◯寮・浴場前
由織がキョロキョロしながら歩いてくる。
由織「(困って)どこに行ったのかしら?
やっぱり先生に…(ハッとして足元を見る)あら…」
濡れている床。濡れた部分が表のほうから続いている。
灯りのついた浴場を見る由織。
シャワーの音がかすかに聞こえる。
由織「?」
◯寮・浴場
すがるように善博を見つめる奈緒。
奈緒「私を抱いてください。そうすれば私…(忘れられるかも)」
◯寮・浴場前
由織「!」
立ちつくす由織。
◯寮・浴場
奈緒の胸が善博の胸に押しつけられる。
善博「!」
思わず下着姿の奈緒の全身を見下ろす善博。
奈緒を抱く善博の手に一瞬力がこもる。
天井の水滴が一滴落ち、善博の頬を掠める。
ハッとする善博。
善博「(小さく首を振って)それは…できない」
奈緒「え?」
善博「君は僕よりも本当はずっと強い子だ」
奈緒「(首を振って)私、強くなんかない」
奈緒の身体をそっと離して、
善博「君のほうが、僕よりも…」
善博の悲しげな瞳に、なにかを感じる奈緒。
奈緒「…松永さん」
沈黙する二人。
目をいったん落とし、再び奈緒を見る善博。
優しく微笑み、いたわるように、そっと奈緒の頭を撫でる。
善博「風邪、引いちゃうぞ…」
優しい言葉に、我に返って、
奈緒「私、私…」
眼に涙があふれ、善博の胸に抱きつく奈緒。
奈緒、善博の胸で子供のように泣く。
奈緒「ごめんなさい…ごめんなさい…」
善博、奈緒の身体を優しく抱きしめる。
◯寮・脱衣場
善博に背を向け、タオルで身体を拭いている奈緒。
外へ歩き出す善博。
床にたたまれた浴衣が置いてある。
浴衣を拡げ、思い当たったように、小さく頷く善博。
善博「(奈緒に)これ、少しの間借りておいたら?」
と、浴衣を、背を向けている奈緒の肩に掛ける。
奈緒「(浴衣を見て)はい」
善博「じゃ…」
脱衣場を出ようとする善博。
奈緒「(申し訳なさそうに)松永さん。…すみませんでした」
善博「(微笑み)奈緒ちゃんが元気になってくれれば、いいんだ」
微笑む奈緒。
脱衣場を去る善博。
◯寮・浴室の前
出てきて扉を閉める善博。
人影があわててスッと柱に隠れる。
クスッと笑う善博。
善博「(誰にともなく)浴衣、ありがとう」
気まずそうに柱の影から出てくる由織。
由織「あ… わかりました? (照れて)こっそりやったのに、格好悪いですね
。私」
善博「(小声で)今は、彼女になにも、聞かないでやってもらえるかな?」
一瞬の間の後、優しく微笑む由織。
由織「…はい」
◯中庭
少女がポツンと立っている。
悲しげに鳴らない風船を見つめている。
◯寮・脱衣場
二人のやりとりが聞こえてしまっている。
奈緒「……」
微笑む奈緒の眼から、すっと一筋の涙。
浴衣を大切そうに抱きしめる奈緒。
◯日めくりカレンダー
8月6日
◯善博の部屋(朝)
ノックの音。
ドアを開ける寝起きの善博。
ドアの外に紅潮した奈緒がいる。
一瞬、あ…という感じで、恥ずかしそうに視線を横に向ける奈緒。
善博「(とまどい)な、奈緒ちゃん…。どうしたんだ?」
しかし、すぐに明るい笑顔になり、
奈緒「松永さん。来て! すぐに来てください!」
嬉しそうに善博の腕を引っ張る。
善博「お、おいおい…」
善博、呆気にとられながら奈緒に引っ張られていく。
◯海辺
飛ぼうとしている鴎。
それを見守っている雫。
奈緒に引っ張られ善博がやってくる。
奈緒「ほら!」
善博立ち止まり、軽く驚き
鴎、バタバタと小さく飛ぶ。
善博「飛べるのか?」
鴎、すぐに着地してしまう。
雫「(善博に)さっき、少しだけ…飛びました」
再び、羽をバサバサと羽ばたかせる鴎。
雫「頑張って」
奈緒、両拳を握って叫ぶ。
無言だが、自分のことのように表情に力のはいる雫。
奈緒「翼があるなら飛ばなくちゃ。飛ばなくちゃダメ!
あなたは飛べるの! あきらめないで!」
奈緒の想いが通じたように、翼を拡げ大空に飛び立つ鴎。
雫「(微笑んで)飛びました!」
善博「(呆然と)飛んだ…」
雫、初めて明るい笑顔を見せ、満足げに善博を見て、
滑空する鴎追いかけるように砂浜を走っていく。
鴎を眺めながら、笑顔でそっとつぶやく奈緒。
奈緒「私に代わって伝えてね。私は、もう大丈夫だからって…」
善博、鴎を見つめる奈緒の顔を、まぶしげに眺める。
奈緒、鴎を見たまま、
奈緒「ちょっと、つき合ってもらえませんか?」
善博「? あ、ああ…」
◯岩礁
静かな海にフルートの音が流れる。
フルートを吹く奈緒。
その横で座って聞き入る善博。
演奏を終えた奈緒。
奈緒「ここ、秘密の場所なんです」
善博「?」
奈緒「(フルートを見つめ)ずっと好きだった人がいたんです。
去年、その人と一緒にここを見つけて…」
◯岩礁(奈緒の回想)
去年の奈緒(髪型別)が、先輩と岩礁に座っている。
そっと先輩の手が奈緒の肩を抱く。
一瞬驚くが、そのまま胸に顔を預ける幸せそうな奈緒。
奈緒「(OFF)来年まで秘密の場所にしようねって…」
先輩の胸に抱かれ幸せそうな奈緒、緊張した顔で、先輩を見上げ、
目を閉じる(キスされる直前の雰囲気)。
奈緒「(OFF)あの人、ちっちゃな子供みたいにニコニコ笑って、
嬉しそうにずっと笑ってて…」
波が二人の足下を行き来している。
◯岩礁
善博に背を向ける奈緒。
奈緒「でも、飛行機事故で…去年…」
奈緒の足下に波しぶきがかかる。
奈緒「吹奏楽部の先輩で、フルートを教えてくれたのも…先輩でした。
辛くて辛くて…思い出を捨てなきゃって思って…これを、ここに捨てに来たん
です」
善博「……」
ふと、少女の立っていた岩場を見上げ、
奈緒「(冗談めかして)ここにいた女の子、海童女だったのかも知れませんね」
善博「え?」
※1話、岩礁での奈緒と少女の出会いシーンをインサート。
奈緒「私の、本当の気持ちが見せた幻だったのかなって。
海童女って人の思いが形になるそうですから…」
善博「…海…童女」
岩場を見ながら、自分に言い聞かせるように、つぶやく奈緒。
奈緒「辛い記憶でも、いつか想い出に変わるまで…人って、
心の中にしまっておくしかできないんですよね」
奈緒、善博を見て微笑む。
奈緒「今なら、素直に自分の気持ちが言えます。好きです。松永さん」
奈緒の足下を引いていく波。
善博「あ…」
何かを言おうとするが何も話せない善博。
× × ×
深景の笑顔、フラッシュバック。
× × ×
奈緒「松永…さん?」
対峙したまま沈黙する二人の間を、潮風が通り抜ける。
◯寮・ラウンジ
テーブルの写真ををまとめているつぐみ。
つぐみ「ふぅ…。やっぱ、水着やないと稼げんわ…(つぐみの前に立つ影)ん?
」
つぐみが面を上げると伊藤である。
× × ×
つぐみ、写真の束をトントンやりながら、
つぐみ「(とぼけて)なんのことや? うち知らん」
伊藤「(卑屈な笑顔)昨日言ってただろ? そっちの言い値で買うからさ」
つぐみ「知らんモンは知らん」
伊藤「とぼけるなよ! 昨日…」
つぐみ「あ、そやった! あんたが欲しそうな写真、あったんや」
伊藤「(喜んで)マジ?」
× × ×
つぐみ「(OFF)これで全部や」
様々な女生徒といちゃついている伊藤の写真の数々が並べられる。
伊藤「な!?」
つぐみ「(つまらなそうに)売り物にならんから、全部持ってって」
伊藤「(愕然)い、いつの間に…」
× × ×
気まずそうなに何枚もの写真を見比べながら、去っていく伊藤。
伊藤「こ、こんなの…見られたら、俺の信用が…」
つぐみ、ニヤニヤして伊藤を見送る。
つぐみ「なぁにが信用や。アホくさ…」
写真屋の袋から、一葉の写真を取り出し、見つめるつぐみ、
申し訳なさそうに、手にした写真をちぎる。
つぐみ「(OFF)二人に悪いこと、してもうたな」
◯夜・海岸
大輪の花火が夜空に開く。
生徒達の歓声。
花火に照らされ微笑む雫。
由織と善博が立っている。
由織「女の子? (首を傾げ)いえ、見かけたことは…」
善博「そう…」
由織「なにか?」
善博「(笑って)いや、いいんだ」
花火が止み、星空が拡がる。
由織「(OFF)綺麗な星空…」
善博「(OFF)はは、花火をするのがもったいない位だな」
由織「七夕ですから、天の川もよく見えるのかしら?」
善博「七夕…?」
由織「明日は、旧七夕なんですよ」
善博「ああ、なるほど…(M)七夕…どこかで…(聞いたような)」
ちなつがやってくる。
ちなつ「おにいさん!」
善博の横に立つちなつ。
ちなつ「綺麗だね~! あ、ほら、変な形~!」
と、善博の腕を引っ張る。
花火を見上げている善博。
ちなつ「もう、少しでお別れだね。せっかく仲良しになれたのになあ」
ふと寂しげな表情のちなつ。
善博「ちなつちゃん…」
ニコッと笑って、
ちなつ「あは! (ぺこっとお辞儀)色々とお世話になりました」
善博「こっちこそ。楽しかったよ」
ちなつ「ホント?」
善博、笑顔で頷く。
ちなつ「やった~」
ふと、善博の耳に(だけ)風鈴の音が響く。
少し離れたところに風鈴を持った少女が、ポツンと立って花火を見上げている。
善博「あの子…」
× × ×
少女の前に立つ善博。
善博に気づき、悲しげに微笑む少女。
少女「今夜、花が咲くよ。(ためらって)花が開いたときに、
扉が開くから…。それで全部わかるから」
ドーンと大きな花火が複数開く。
花火が消え、一瞬の静寂に風鈴の音。
思わず花火を見上げる善博。
少女がいなくなっている。
善博「花が開く…」
月下美人の蕾が善博の脳裏をよぎる。
× × ×
花火を見上げているちなつ。
ちなつ「(善博がいない事に気付く)…あれ? おにいさん?
(首を傾げ)どこ行っちゃったのかな」
× × ×
友達と花火をしている浴衣姿の奈緒。
花火を見ながら、物思いに耽る奈緒。
奈緒「(M)松永さん…。多分、あの人も私と同じ…」
女生徒「浴衣、いいなあ」
ハッとして、笑顔に戻る奈緒。
奈緒「エヘ。由織さんに貸りたの」
女生徒「ずる~い。奈緒ばっか」
笑いながらふと辺りを見廻す奈緒。
喧噪から離れて走っていく善博の姿。
奈緒「松永さん?」
◯旅館前
旅館の前に立つ善博。
善博(N)「僕は、七年前…。この旅館で…深景さんと別れ、それ以降会ってい
ない…。
どうして、こんなにも心が痛んで、いつまでも悲しみを引きずるのだろう?」
少女「(OFF)扉が開くから…。それで全部わかるから」
旅館の扉に手を掛ける善博。
◯旅館・裏庭
月下美人が開いている。
その前に立つ善博。
善博「花が…」
◯7年前の裏庭(回想)
静かに、月下美人を見つめる善博の脳裏に深景の記憶が甦る。
深景「(OFF)7年後に花が咲くわ」
若い善博と深景が、植えたばかりの月下美人を座って眺めている。
善博「ずいぶん先だなあ。7年後にまた見に来ようよ」
深景「……」
善博「? 深景さん」
深景、口を押さえて咳をする。その指の間から血がにじむ。
善博「(あわてて)深景、深景さん!」
深景「ごめんなさい。善博君…本当にごめんなさい。私、花が咲くのを一緒には
…」
善博「え?」
月下美人に吐血した染みが拡がっていく。
◯旅館・裏庭
善博「(我に返り)今のは…なんだ?」
汗を流し、額に手をやる善博。
善博「(首を振り)違う…。深景さんは…」
憔悴する善博、肩で息をしている。
月下美人から逃げるように、その場を出ていく。
◯客室
部屋の前に立つ善博。
善博「(迷い)…」
おもむろにドアを開ける善博。
窓から寂しげに外を眺める深景(浴衣)がいる。
深景「もう、私の身体は…」
振り返り、善博を見て、
深景「最後に海が見たくなって、ここに…」
振り返り、こちらを向いて悲しげに微笑み、
深景「今まで…ありがとう。善博君」
誰もいない部屋に立ちつくす善博。
善博「(M)そうじゃない…。ここに手紙を置いて…」
古びた机に置かれている手紙。
善博が触れようとすると、泡になってたち上っていく。
と、同時に部屋が暗転。
善博「!?」
◯深海(イメージ)
背景、紺から黒へと落ちていくグラデーション。
小さな泡が筋状に昇っていく。
善博「ここは…」
少女「海の底…」
水中を漂うように、髪をユラユラとさせた少女。
少女「想い出の海の底…」
善博「想い出の…海」
少女「善博君が捨てようとしたものが眠っているの。今、見たでしょう?」
首を振る善博。
善博「いやだ…」
◯客室(過去を見下ろす善博)
(回想)窓から寂しげに外を眺める深景(浴衣)がいる。
深景「最後に海が見たくなって、ここに…」
振り返り、悲しげに微笑み、
深景「黙っていてごめんね。今まで…ありがとう。善博君」
◯客室(回想)
布団で寝ている病床の深景。
善博に向け、手を伸ばす深景。
深景「…約束してね。…また、いつか…あなたが、愛する人と出会ったとき、
私と同じくらい…ううん、私以上に愛してあげて…。
そして、時々…時々でいいの。私のことを思いだして…。
それだけで…私は、これまで生きてきた意味が…ある…か…ら…」
深景の手が離れていく。
◯深海(イメージ)
善博「やめてくれ…」
突っ伏して肩を震わせる善博。
その背後に悲しげな少女が現れる。
少女「善博君…」
顔を上げる善博。
善博「僕は、この海で…あの人と過ごして…」
少女、悲しげに善博を見る。
善博「この海で…あの人は逝ってしまった。辛かった…悲しかったから…。
その死を認めたくなくて…」
少女「まだ、どこかにいる、と信じたかった?」
善博「(自嘲)そうさ。いつの間にか、有りもしない手紙の話を作って、
それを無理矢理…信じ込んでた。
(少女を睨んで)どうして、そっとしておいてくれなかった?
こんなことをして、何の意味があるっていうんだ!」
少女「海で待っているから…」
善博「(顔を上げ)え?」
少女「善博君が想い出を返しに来るのを…」
善博「(呆然と少女を見る)……」
少女「さようなら、善博君…」
善博「さようなら?」
少女「私はもう会えない…」
善博「会えない?」
少女「もう、あなたは返せるはずだもの。だって…」
少女と背景がぼやけてくる。
◯旅館・客室
四つん這いになったまま、善博が顔をあげると、辺りが現実に戻っている。
月明かりが善博を照らし、正面にいる奈緒をも照らし出す。
浴衣の奈緒と深景が一瞬ダブる。
善博「!」
奈緒「この部屋は…そういうことだったんですね」
善博「(奈緒であることに気付き)奈緒ちゃん!?」
善博、呆然と立ちあがる。
善博「どうして、君が…」
驚いたまま、奈緒を見つめる善博。
奈緒、髪を留めたゴムを外していく。
善博「?」
ファサッと奈緒の髪が降ろされる。
奈緒、震える手で浴衣の襟を掴み、辛そうな表情の善博を見つめる。
善博、呆然としている。
落ちる帯。
浴衣の前をはだけた奈緒が紅潮した顔でうつむいている。
善博「奈緒…ちゃん」
奈緒の足下に浴衣が落ちる。
シルエットの奈緒の裸。
奈緒「(善博を見て)私を…私を好きになって下さい!」
奈緒が一歩足を踏み出すと、月光に照らされ一糸まとわぬ姿が露わになる。
善博「…奈緒」
そのまま善博の胸に飛び込む奈緒。
善博「(思わず抱きとめる)!」
見つめ合う二人。
奈緒の眼に涙があふれる。
奈緒「私のこと、嫌いですか?」
善博「(奈緒を見つめ)……」
思いがはじけたように、奈緒をギュッと抱きしめる善博。
奈緒「(不意を付かれ)あ…」
善博の胸に身を預け、目を閉じる奈緒。
遠くで潮騒が聞こえる。
身体を少し離し、奈緒の顔を優しく見る善博。
善博「奈緒…」
奈緒「(微笑)善博…さん…」
目を閉じる奈緒に、唇を重ねる善博。
× × ×
全裸の奈緒に、善博の身体が重なる。
キスする二人。
× × ×
頬を赤らめ、目を閉じている奈緒、あっ! とまどう。
奈緒、切なそうな表情で首をゆっくり振る。
優しく、その頬にキスをする善博。
互いに見つめ合う二人。
善博の頭を抱き、眉を寄せる奈緒。
月光による二人のシルエットに、セリフが被る。
奈緒「(M)二人で…、みんな海に返しましょう。想い出を…。そしたら…きっ
と…」
善博「(M)きっと?」
奈緒「(M)きっと、私たち…その為に巡りあったんです」
月明かりが漏れる窓から星空が覗く。
どこかでチリン…と風鈴の音がする。
◯日めくりカレンダー
8月7日
◯花壇(昼)
花壇の手入れをしている由織。
奈緒「(OFF)ありがとうございました」
由織に畳まれた浴衣を手渡す奈緒。奈緒の髪型は、去年のもの。
由織「あ? その髪型…」
奈緒「うふふ…」
奈緒、なにも言わず明るく笑う。
由織「!(なにかに気付いた様子)」
由織、良かった…といった風に微笑む。
奈緒「…あの、松永さん、見かけませんでした?」
由織「海を見に行く、と、さっき…」
奈緒「そうですか…」
降ろした髪が風になびいている。
由織「今行けば、まだ、海にいると思いますよ」
奈緒「(微笑)いえ、いいんです」
奈緒、微笑を浮かべ、海のほうを見つめる。
◯砂浜(昼)
善博が歩いている。
立ち止まって、辺りを見回す。
夕べの少女の声が脳裏に甦る。
少女「(OFF)海で、待っているから…」
善博「(M)あの子は…誰だったんだろう?」
つぐみ「(OFF)添乗員さん!」
善博が足を止めると、つぐみが手を振っている。
× × ×
つぐみ「あの時の写真、忘れとったわ」
と、海岸で少女と撮ったときの写真を差し出すつぐみ。
善博「あの時の?」
つぐみ「忘れたん? この辺で撮ったやろ?」
受け取った写真を見て眉をひそめる善博。
写真には、一緒に撮ったはずの少女の姿がない。
× × ×
つぐみ「(写真をのぞき込み首を傾げる)はぁん?
(笑って)なに言うてはるの。添乗員さん、一人やったやない」
善博「小さな女の子がいたじゃないか」
つぐみ「あはは、写真は嘘つきまへんわ。
さて、明日は帰るさかい、最後の商売や!」
気合いを入れて、立ち上がるつぐみ。
呆然としたまま、取り残される善博。
◯日めくりカレンダー
旧七夕と書かれている。
◯岩礁
満天の星空。
砂浜に座って、星空を眺める善博。
善博「結局…見つからなかったか」
と、手にしたつぐみから貰った写真を見る。
少女「(OFF)この海辺に伝わる七夕のお話なのよ」
善博「七夕…」
善博、立ち上がる。
× × ×
砂浜を歩く善博に、今までの少女と深景の姿がO・Lする。
× × ×
線香花火をする少女(1話)
少女「あの人も、約束してたから…」
× × ×
風鈴の少女(2話)
少女「善博君は、善博君…だもん」
× × ×
深景「再会の約束をした恋人同士が、七夕に出会えれば、奇跡が起こるの…」
◯寮
フルートが鳴り響いている。
フルートの音をBGMに寮の少女達の様子。
× × ×
部屋で眠っているちなつと治美。
あどけない顔で寝相悪く眠るちなつ。
× × ×
毛布を被って、ニコニコしながら、電卓を叩いているつぐみ。
× × ×
部屋の窓から、星空を眺めている雫。
◯中庭
フルートを吹いている奈緒。
奈緒「(M)善博さん…。私、待っています…。
あなたが想い出を海に返すのを…」
◯砂浜
月明かりに照らされ、泣いている少女。その脚の付け根まで波が寄せている。
善博が歩いてきて、立ち止まる。
泣いている少女の背中に、声を掛ける善博。
ハッとして、驚いた表情で振り向く少女。
少女「善博…君」
善博「泣いてる…のか?」
うつむく少女。
少女「ごめんね。善博君…約束守ってくれたんだもん」
善博「約束? (ハッとして)」
× × ×
死にかけている深景の記憶。
深景「(OFF)約束してね。…また、いつか…」
× × ×
善博、確信めいて、少女を見る。
少女「笑わなくちゃ、ダメだよね」
と、笑いながら再び涙を見せる少女。
善博「君は…やっぱり…」
善博、ゆっくり少女に歩み寄る。
少女「奇跡は一度きりだけど、いつでも
(深景の声と被って)私は…海で待っています。
あなたが、私との想い出を大切にしてくれる限り…」
少女、月明かりに照らされ深景へと変わっていく。
善博「深景…さん…」
海に入っていく善博。
善博「深景さん!」
善博、深景に走り寄る。
深景を抱こうとするが、触れた部分が泡となって崩れてしまい、
手がすり抜けてしまう。
善博「!!」
悲しげに見つめ合う二人。
深景「会いたかった…。善博君…」
善博「話したいことが、いっぱいあるのに、もう…」
深景、包むように善博を抱く。
深景「私の最後の時に、心から泣いてくれたあなた…。
いつまでも、私を愛してくれたあなた…」
善博「…深景さん!」
深景「(涙が光る)ありがとう善博君。この言葉が言いたかったの。
本当に…ありがとう。私、あなたに出会えて幸せでした」
波に揺れる二人のシルエット。
善博「…短い、短すぎる間だったけど、俺も本当に幸せだった」
深景「もうあなたは大丈夫。だから約束してね。私の想い出は全部海に返すって
こと」
善博「(声が出せない)…」
深景「…さようなら善博君」
善博「深景さん!」
善博の腕の中で、無数の泡となって消えていく深景。
善博「……」
肩を震わせる善博。
シャボン玉のように浮かんだ泡が、月の前を上へ通り過ぎていく。
◯エピローグ「7年後」
晴れた夏の砂浜。
寄せては返す青い波。
美佳、砂浜で遊んでいる。
砂を盛って、なにかを作っている様子。
声をかけられ、顔をあげる美佳。
笑顔の美佳、立ち上がって走り出す。
善博、走ってきた美佳を抱き上げる。
美佳と一緒に海を見つめる善博。
美佳、抱かれたまま、善博に何か(お母さんは?)問いかける。
美佳、善博の肩越しに母親を確認し、手を振る。
海の波光をバックにして、美佳を抱く善博に母親が近づいていくシルエット。
幸せそうに微笑む善博。まぶしそうに海を見やる。
キラキラと輝く静かな海。
おわり
Copyright©
橙色流星
2001-2026. SITE DESIGN and PRODUCED by
Orangestar Studio
. All Rights Reserved.