乘一叶月舟,渡万顷星河,将那无法言喻的心意,化作诗行,遥寄向海的彼方……


第一話 「緋色の追憶」


◯登場人物
◇松永善博 森沢奈緒
◇早瀬雫 川奈由織 岩崎ちなつ 杉野治美 津賀島つぐみ
◇伊藤亮二 管理人 女教師
◇少女 深景(回想のみ)
◇その他

◯夏の夜・蜻蛉海岸
寄せては返す黒い波頭に、月の光が乱反射している。
数日で満月になろうかという月が浮かんでいる。
波間から、キラキラと輝く泡沫が浮かび上がってくる。
泡が人のシルエットに形成されていく。

◯タイトル

◯日めくりカレンダー
8月2日

◯砂浜(昼)
青空に跳ね上がるボール。
カメラのファインダー越しに、
受けようとして転ぶちなつ(私服)の姿。
ちなつ「ああん! もう!」
カメラを構えているつぐみ、にぃっと笑っている。
ちなつの傍らにいる治美(水着)。
治美「もう! ちなつったら、よそ見バッカして」
砂にしゃがんだままの状態ですねて、
ちなつ「だってぇ~」
と、目線を横のコートに向ける。
横のコートでは、奈緒(水着)と善博のペアが試合をしている。
水着の生徒達がその周りで応援している。
女生徒「伊藤先輩ぃぃぃ!!」
伊藤がスマートにボールをレシーブ。
弧を描くボール。
善博「そっち、そっち!」
奈緒「あ、はい!」
あわてて、トテトテとボールを追う奈緒。
その様子を見ながら、半べそのちなつ。
ちなつ「ちなつが、ペアになる予定だったのにぃ」
奈緒のぎこちないレシーブ。
ボールは腕から少しはずれ、脚に当たって跳ね返る。
奈緒「しょっ! 行きましたよ!」
それを見た善博少し戸惑い、
善博「え? あ、ああ…」
あがったボールをスパイクする善博。
伊藤は受けられず、ホイッスル。
奈緒「やったぁ!」
奈緒と善博、両手をポンと合わせて喜ぶ。
奈緒「添乗員さん、すっご~い」
善博「(苦笑)ま、まあね。アハハ」
サーブをするポーズのまま、その様子を見るちなつ。
ちなつ「(ふくれて)ぶぅ」
伊藤、悔しそうに善博をにらむ。
伊藤「チッ…」
生徒達の喧噪の後方。
波打ち際に、忘れ去られたようにボールが転がっている。
波にさらわれ、少女の足下で止まるボール。
ボールを拾い上げ、善博達を見ている少女。
   ×    ×    ×
ファインダー越しのストップモーションで、
奈緒やちなつのビーチバレーの姿、数ショット。
   ×    ×    ×
汗だくの善博、砂浜にドカッと座る。
横に座った奈緒が、タオルを差し出す。
奈緒「はい、添乗員さん」
善博「ああ、どうも…」
その後ろを、カメラを持ったつぐみが満身の笑みで通り過ぎる。
つぐみ「うしし、収穫収穫!」
善博、汗を拭きながら奈緒の名前を呼ぼうとして、
善博「えっと…ごめん」
奈緒「森沢です。森沢奈緒」
こそっと奈緒に顔をつきあわせ、
善博「(小声で)奈緒ちゃん、最後さ…」
奈緒「あ、やっぱ、わかっちゃっいました?」
悪戯っぽく上目遣いで善博を見る奈緒。
善博、返事の代わりに、肩をすくめる。
奈緒「(赤くなって気まずそうに)…
なにも言われなかったから、つい」
善博「(苦笑)黙ってた僕も、同罪だ」
奈緒「あ、そうかも…」
善博「(にらんで)こら!」
楽しげに笑う二人。
二人に影が被る。
ん? と顔を上げる二人。
影は、ムッとした顔の伊藤である。
奈緒「あ…伊藤先輩…」
善博を無遠慮にジロジロ見る伊藤。
伊藤「(鼻で笑って)ふん…。
(奈緒に)森沢さん、用事があるんだ」
奈緒「え? あ、はい…」
すまなそうに善博を振り返りながら、
伊藤の後を付いていく奈緒。
思わず苦笑する善博。

◯寮(夕方)
生徒達が出入りしている。
その中に混じって寮の中に入る雫。
箒で寮の前を掃いている由織、
そんな生徒達を微笑んで見送っている。

◯寮・玄関内
お喋りをしながら、中で靴を脱いでいる生徒達。
その横の掲示板に『東陽学園サマースクール日程表』
と書かれたスケジュール表が貼られている。
スケジュール表を見上げている雫。
雫「(ポツリと)明日は、山登り…」
背を向け、奥へ去っていきながら、
雫「嫌い…」

◯砂浜
夕焼けで一面朱に染まった砂浜。
波に押し戻され、浜に打ち上げられたバレーボール。
それを拾い上げる善博。
善博、手にしたボールを片手でクルッと回し胸で受け、
ふと夕陽を見つめる。

◯マラソン大会開催中の道路(回想)
N「人から期待され、その期待に答えることが、多分、
その頃の僕の全てだった…」
マラソン大会のトップグループの中に、若い善博がいる。
善博の膝が砕けるイメージ。
膝を押さえ、アスファルトに倒れている善博。
F・O
黒い画面に救急車のサイレン
N「自分の全てを、肉体、という危うく脆いものにかけてきた僕は、
いとも簡単に、その存在理由を見失ったのだった」

◯蜻蛉海岸(回想)
F・I
陽光に照らされる波頭。
砂浜に座って、ぼうっと海を見ている若い善博、ふと、顔を上げる。
善博の横で、深景が微笑んで海を見ている。
善博を見て微笑む深景。
深景を見上げる善博。
緩やかな波が砂浜を行き来している。

◯砂浜
前シーンの青い波が赤く染まり、善博の脚に触れる。
善博、ビーチボールを小脇に抱え、
善博「7年前と、なにも変わってない…。この海も、僕も…」
少女「(OFF)変わってるよ」
え? と善博が振り返ると、背後に少女がいる。
善博「君は?」
少女、しゃがんで波を弄びながら、
少女「この波だって、一つ前に来た波とは違うんだから…。
変わらないものなんてないんだよ」
善博、再び海を見て、まぶしい波の乱反射に眼を細める。
善博「(苦笑)難しいこと知ってるんだね」
少女、立ち上がり、正面から善博を見上げる。
少女の足下を、寄せては返す波。
つぐみ「(OFF)添乗員さん? なにしてはるの?」
立ち上がる少女と、善博が顔を向けると、
カメラを持ったつぐみがキョトンと立っている。
善博「時間が空いたから、ちょっとね…」
つぐみ「夕陽の海岸で散歩としゃれ込んでみたん? 
あは、見かけに寄らずナルちゃんやね~」
と、カメラを向け、シャッターを切るつぐみ。
善博と少女がストロボに照らされる。
つぐみ「(カメラを降ろし)うち、津賀島つぐみ、ゆうんや。
写真代、あとで請求するよって、よろしゅう」
と、走り去っていく。
善博、目を白黒させて
善博「せ、請求ぅ!?」
少女、いつの間にかいなくなっている。
善博「あれっ?」
辺りを見回す善博。

◯寮・廊下
玄関の方へ歩いていく奈緒。
歩いてきた善博、その後ろ姿を確認し、
善博「(M)こんな時間に?」
首を傾げる善博。
善博「(呼びかけて)奈緒…」
ちなつ「(OFF)おにいさーん!」
善博が横を向くと、ちなつが走ってくる。
ちなつ、善博の前まで来て、大きく息を吐く。
ちなつ「ふぅ~。やっと見つけた。ずううっと捜してたんだよ」
善博「(苦笑)ごめん、ちょっと外に…ね」
ちなつ「ビーチバレー、一緒にできなかったから、
夕ご飯一緒に食べてもいい?」
善博「え? ああ…」
ちなつ「ぅやたー!!」
はしゃぐちなつの横で、奈緒の出ていった方を見る善博。

◯食堂(夜)
生徒達の夕食風景の喧噪。
由織がお椀にみそ汁を注いで、並んでいる生徒のトレイに乗せ、
管理人は料理を乗せた皿を生徒のトレイに乗せている。
ちなつ・治美と並んで食事をする善博。
善博、食堂を見回す。
善博「(M)まだ、帰ってきてないか」
ちなつ「ねえ、おにいさん、どうしたの?」
善博「え?(笑って)ああ、なんでもない」
ちなつ「これ、おにいさんにあげるね」
箸でひょいひょいっと、自分の皿のニンジンを、善博の皿に移すちなつ。
治美「あ、こら! ちなつ!」
ちなつ「だって、嫌いなんだもん」
治美「(ちなつに)もう! バスで隣になっただけなのに、
慣れ慣れしすぎ! (善博に)すみません添乗員さん」
善博「(苦笑)はは、別にいいよ」
ふと窓の外に目を向ける善博。
窓の外は薄暗くなっている。
善博「……」

◯岩礁
岩礁で、膝を抱えて座っている奈緒。
昼間とは別人のように暗く沈んでいる。
沈んだ太陽が海を暗朱に染めている。
奈緒「去年と同じ…。波の音も、夕日も…。みんな同じ…」
夕日を見つめ、小さくため息を付く奈緒。
少女「(OFF)悲しいことがあったの?」
奈緒、ハッとして、声のする方角を見ると、少女が微笑んでいる。
安堵して、つられるように微笑む奈緒。
奈緒「なにも、悲しい事なんてないの。ただ…思い出しちゃうだけ」
岩の上に立ち、奈緒を見おろす少女。
少女「悲しくなっちゃう?」
奈緒「え?」
奈緒が見上げると、少女の姿はない。
呆然とする奈緒。

◯食堂
誰もいない食堂で、卓上の醤油差しなどをいくつも指に挟んで歩いている善博。
由織「(OFF)おにいさん、ですか? うふふ」
由織、テーブルを拭いている。
由織「私はカワイイと思いますけど」
手に持った調味料を持って歩きながら、
善博「僕は、学校の関係者でもなんでもな、
ただの旅行代理店の添乗員ですよ? あまり生徒に懐かれるのも…」
由織「イヤですか?」
善博「ま、まあ、悪い気はしないけど、やっぱりね
(厨房カウンターへ調味料を置く)。あ、ここでいいでかな? 川奈さん」
由織「あ、すみません。それから、由織で構いませんよ(笑顔のまま目を伏せ)。
姓で呼ばれるのは、あまり好きではなんです」
善博「あ、そうですか…」
由織「そのかわり、松永さんをおにーさんって、呼びますね」
善博「(困って)そ、それは…」
由織「(ニコッと笑って)冗談ですよ」
善博「(複雑な表情)はあ…」

◯ラウンジ
ラウンジの前を通りかかる善博。
奈緒が一人でソファに座って、観光案内のパンフレットを読んでいる。
誰もいないラウンジで、この海の伝説などが書かれている観光案内を読んでいる奈緒。
パンフレットに『海童女の伝説』と書かれている。
奈緒「海童女…」
善博「(OFF)真剣になに見てるんだい?」
奈緒が顔を上げると、善博が立っている。
奈緒「この…海童女って、知ってます?」
善博「(パンフをのぞき込み)海童女…」
   ×    ×    ×
(フラッシュバック)
夜の海。背を向けた深景が、気持ちよさげに砂浜を歩き、立ち止まり振り返って、
深景「ね、善博君、海童女ちゃんって知ってる?」
   ×    ×    ×
善博「(遠い目)ああ…。前に、聞いたことがある」
奈緒「(独り言のように)私、海童女に会ったかも知れない」
善博「(奈緒を見て)え?」
奈緒「…みたいな女の子がいたんです」
善博「あ、そういえば…さっき」
森「(OFF)入浴していない生徒は、早く済ませるように!」
奈緒「(手を口に当て)あ、先生だ! いっけない」
奈緒、あわてて立ち上がる。
奈緒「それじゃ」
善博「ああ…おやすみ」
去っていく奈緒を見送る善博。

◯浴場
奈緒、ガラス戸を開けて入ってくる。
数名の女生徒が入浴中。
奈緒「(周りを見てホッ)まだいっぱいいるじゃない。なあんだ」
身体を洗っているちなつと治美。
ちなつ「明日、おにーさん、山登り参加するのかなあ?」
治美「知らないわよ。そんなこと」
その後ろを歩く奈緒、ちなつ達をチラッと見て、
奈緒「山登り…(目を伏せ)今年も、あるんだよね…」
その向こう、黙って、湯船に使っている雫。
雫「……」

◯縁側
タオルを持った善博が歩いてくる。
パチパチと線香花火の音。
善博、ふと見ると、庭の縁台の前にしゃがんで、少女が線香花火を灯している。
少女、善博と目が合うと、こんにちは、
といった風に小首を傾げ、無邪気に微笑む。
善博、縁石のサンダルを突っかけ、庭におりながら、
善博「あ…。奈緒ちゃんの言ってた女の子って…」
少女、指を口に当て一瞬考え込み、
少女「夕方、一人で海を見てた人?」
善博、少女の前にしゃがみ、
善博「うん。やっぱり、君だったんだ。(花火を見て)…線香花火か」
はじける火花。
少女「(OFF)あの人も、約束してたから…」
顔を上げる善博。
善博「約束?」
少女、花火を見つめ、
少女「この海に伝わる七夕のお話…」
   ×    ×    ×
フラッシュバック・旅館の庭
線香花火の火花から、照らされる深景の胸元へシーンが切り替る。
深景「再会の約束をした恋人同士が、
七夕に出会えれば、奇跡が起こるの…。この海に伝わるお話だそうよ」
小さくなった火花が、ポトッと落ちる。
   ×    ×    ×
ふと我に返る善博。
少女、消えた花火を摘んだまま、
少女「終わっちゃったね…」
善博、落ちて黒くなっていく小さな火種を見つめ、寂しげに微笑む。
善博「もう、8月だ。七夕なんて…終わっちゃったさ」
少女、善博の顔を黙って見つめ、
少女「違うよ。花火だよ」
善博「(頭を掻き)ああ、そうか…」
少女「(OFF)善博君、またね」
善博「え!?」
善博が顔を上げると、少女はいない。
善博「(呆然)あの子…。今、僕の名前…」

◯日めくりカレンダー
8月3日

◯翌日・庭(朝)
ジョウロで、花に水をやっている由織。
善博「(OFF)由織さん、ここに来て長いんですか?」
ジョウロの水を止め、
由織「(考えるように)もう、三年になります。
(笑って)未だにドジばかりで、管理人さんに叱られてますけど」
苦笑する由織。
善博「なんていうか…。由織さんみたいな人が、
こんな田舎でお手伝いって…」
由織「おかしいですか?」
善博「(苦笑)というか、不思議な気が…」
由織、海のある方角に顔を向け、
由織「私、この海が好きなんです。子供の頃、
夏は毎年この海で過ごしてましたから」
管理人がやってくる。
管理人「おお、ちょうどええところにおった。
アンちゃん、あんた、今ヒマか?」

◯裏庭
小さな魚を飲み込む鴎。
奈緒「(OFF)へえ。それで鴎にご飯あげてるんですか」
しゃがんで、その様子を見ている奈緒。
奈緒「なにしてるのかと思いました…」
善博「ケガしてるのを、管理人さんが助けたらしくてね」
奈緒「飛べないんですか?」
善博、袋から魚をつまんで、鴎の頭上へぶら下げる。
バタバタを首を伸ばす鴎。善博が魚を口元まで降ろすと、
ようやくパクッと魚をくわえる。
善博「この通り。管理人さんは、ケガは治ってるって言うんだけど」
奈緒「(鴎に)そう、君、飛べないんだ」
奈緒は、悲しげに鴎を見つめるが、フッと微笑んで、
奈緒「翔ばなくちゃ…ね。鴎さん」
と、自分に言い聞かせるように鴎に話す。
奈緒の様子を黙って見つめている善博。
善博の視線に気付き、赤面してあわてて立ち上がる奈緒。
奈緒「(そっぽを向き)あ、そろそろ集合時間! 行かなくちゃ」
と走っていく。
善博「と、こっちも準備しなくちゃな」
袋を逆さにして、鴎に魚をぶちまけ、
善博「あとは、セルフサービスだ」

◯山道
山登りに参加する生徒達。
それに混じって、善博もちなつや治美と一緒に山を登っている。
ちなつ「(ニコニコして)こうしてお兄さんと
一緒に山に登るの、楽しみにしてたんだ~」
ちなつ、甘えて善博の腕に両手をかける。
治美「(手を振り上げ)こーら! ちな…」
女教師が走り降りてくる。
ちなつ「わ、先生!」
ちなつ、あわてて善博から身体を離す。
善博「先生…。どうしたんです?」
女教師「(足を止め)あ、松永さん。(治美達に)
あなた達、早瀬雫さん見なかった?」
治美「早瀬さん? (ちなつと顔を見合わせ)いえ…」
女教師「生徒が一人、どこかに行ってしまったらしいんです」
善博「ああ、じゃ、僕も捜しましょう」
女教師「そうですか! 助かります。森沢さん!」
奈緒「はい!」
奈緒が遅れて走り降りてくる。
女教師「松永さんと一緒に、捜してもらえるかしら?」
走ってくる奈緒を見て、ん? という表情の善博。
奈緒「あ…」
善博に気付き、少し驚いた様子の奈緒。
女教師「(善博に)私は一応、
寮の方に確認してきますので、なにかありましたら」
善博「ええ。連絡します」
走っていく女教師。
治美「じゃ、あたし達、先に行ってます」
善博「ああ。(ちなつに)すまないね」
ちなつ「(首を振って)一大事だもん。早く見つかるといいね。その人」
道の前方で立ち止まっている奈緒の方へ、走っていく善博。

◯森
周りを見渡しながら、細い道を歩く善博と奈緒。
奈緒「同じ班なんで、みんな手分けして捜してるんですよ」
善博、ふと森を見上げ、
善博「(M)そうか…。この道は彼女と」

◯善博の回想
善博は、スケッチブックを抱えた深景と善博、
楽しそうに山道を歩いている情景。
木漏れ日に照らされる深景の笑顔…。

◯森
奈緒「松永…さん?」
善博「(ハッとして)あ、ああ…ごめん…」
ガクッとバランスを崩す善博。
善博「…と」
あわてて、善博の身体を支える奈緒。
奈緒「大丈夫ですか」
思わず、見つめ合う二人。
×
木陰で座っている二人。
善博、片足を投げ出し、膝をさすっている。
心配そうに見る奈緒。
善博「(苦笑しながら)長距離選手だったん 
だけど、膝を故障しちゃってね」
善博は、正面を向いたまま語り続けている。
善博「それでヤケになって、気の向くまま旅をして…」
善博、寂しげに山間から覗く海を見る。
善博「…この海に来てね」
奈緒「(ポツリと)松永さんも、この海に来たことがあるんだ…」

◯岬
森を抜け、岬に出る善博と奈緒。
岬の突端で、絵を描いている深景の姿。
善博「(驚き)み…深景さん…!?」
奈緒「(善博を見て)え?」
ゆっくり振り向く深景がO・Lして雫に変わる。
善博「(ごまかして)あ、いや。(指を指し)あそこにいる彼女…」
奈緒「早瀬さん!」

◯岬の突端
うつむく雫の前に立つ善博と奈緒。
奈緒「あの…早瀬さん。みんな心配してますよ?」
雫「……」
奈緒と善博、顔を見合わせる。
善博「さ、早く戻らないと…」
善博、促すように。片手で雫の背中に触れるがパッと離れて、振り返り、
雫「一人で…帰れます。ごめんなさい」
お辞儀をして、トトトッと走って行ってしまう。
奈緒「(見送りながら)同じ班になって知り合ったんですけど、
あの人、いつもあんな感じなんです」
善博「(ホッとため息)まあ、とにかく見つかって良かったよ」
善博の顔を見つめる奈緒。
奈緒「あの…」
善博「え?」
奈緒「さっき、みかげさんって…」
善博「あ、あれは…」
二人の間を、風が通り過ぎる。
   ×    ×    ×
善博「今、奈緒ちゃんが立っている辺りで…
絵を描いていた人が居たんだ」
海を眺める善博。
その横に立つ奈緒、善博を見て、
奈緒「絵…ですか?」
善博「ここから見える海を描いてた」
鴎が数匹飛び回っている。
奈緒「(OFF)その人、亡くなったんですか?」
善博「え?」
おもむろに奈緒を見る善博。
奈緒、真剣な眼差しで善博を見据える。
善博「あ…いや…彼女は…」
奈緒「(両手を握りしめ)その人、もう想い出ですよね?」
善博「奈緒…ちゃん?」
奈緒「想い出なんです!」
鴎達が群れて飛んでいる。
奈緒「(OFF)絶対に、絶対に、
いくら私が泣いたって、思い続けたって、あの人は…」
善博、呆然と急変した奈緒を見つめる。
奈緒「心の中でいつも笑ってる…」
両手で顔を覆い泣き出す奈緒。
奈緒「残酷…すぎるんです」
とまどい、立ちつくすことしかできない善博。
善博「(奈緒を見て)……」

◯岬
絶句した善博に続き、鴎の鳴き声が響く。
N「その時僕は、僕自身の心がえぐられたような気がして、
ただ絶句していた…」
弧を描いて飛んでいる鴎の群。
鴎が通り過ぎると、少女が立っている。
善博と奈緒を見つめている少女。

(第一話 了)

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